【104】 「まぁ、聞いてくださいよ、お客さん。」


画像

「 まあ、聞いてくださいよ、お客さん。 お客さんは話が分りそうだから・・・ 」
20数年も前のことだが、離島に出張 し タクシーで或る漁村を訪ねた折のことである。
人の良さそうな運転士さんが、良い聞き手を得たとばかり 熱心に話しかけてきた。

「 この小さな漁港の改築工事には、3ヵ年の事業で 何億円も掛ったそうです。 最近は、後継者不足で漁業者が減り、専業漁師と半農半漁合わせて 10 軒程 しか いないのですよ 」
「 避難港の役割もあるのではないでしょうか 」
「 避難港なら、重点的に港を指定して整備すれば足りるはずです。 私は地元ですが、嵐の時 ここに避難 して来た船は見たこともありません 」
「 ・ ・ ・ 」

「 また、 隣町では、3 反ほどの畑 しかないのに、農地を保護するための海岸保全事業とかいう公共事業で、1億円近くも掛けて防波堤を造っているのです。 漁港の改築も この防災工事も、国が 8割近くの補助金を出しているんだそうですね 」
「 ・ ・ ・ 」

「 国は、漁民には船泊まりを造ってくれるし、農民には農地改良をしてくれます。 タクシーには車庫が必要ですが、国は 1銭も出してくれません。 おまけに、私たち サラリーマンは所得税まで取られるんですよね 」
この運転士さん、なかなか詳しいな と思いながら、
「 国民の命に係る食料を、作ったり獲ったりするからでしょう 」
「 私も、お客さんの命を預かっているんですけど・・・。 本当に、国民皆が必要なものだったら、こんなこと言わないんですけどねぇ 」
「 確かに、農林水産省には、1次産業を大事にする伝統的な考え方があります。また、離島振興法の高率補助もありますからね 」
「 ・ ・ ・  ( このお客さん、俺の言いたいことが分かってないな ) 」

画像
             ※ 川原本村の浜

画像
             ※ 川原本村の浜

ところで、公共事業には、自然・景観上からは 別の見方もある。
「 道路建設も必要だろうけど、河川 も 海岸 も 港 も しっかり ( コンクリートで固め ) 防災対策を施して、国土を保全しなければ駄目なんですよ 」
列島改造も終わりに近い頃、建設省から県の課長補佐として出向 して来ていた技官が話 したことがあった。
その頃は、道路予算にくらべ、海岸保全事業の予算は少なかったのだろう。
「 国土の保全は大事だけど、もっと自然との調和を考えて、コンクリート張りは必要最小限にするべきじゃないですか 」
私は、河川の三面張り防災工事を例にとり、自然・景観保全の必要性を主張 した。
「 そんなことを言っていたら、国土保全は進まないし、かえって経費が掛かるんですよ 」 と 一蹴された。

「 河川、海岸、港湾、漁港などの建設担当技官の頭には、先ず 「公共事業」ありきです。 これに 国土保全という崇高な名目があって、自然・景観保全などは、二の次なんですよ 」
自治省から出向して来ていた若いキャリアの方が解説(?)してくれた。

河川は、かつて、防災優先で三面張りにしたため、魚やエビなどの生き物も棲まなくなり、国民の怨嗟の声が大きくなった。
その反省に立って、川の自然を甦らせよう と、いま、あちこちの河川では、河床に石を張りコンコリートで固定したり、蛇行した小さな水の流れを造る工事を公共事業で進めている。
「 見かけは良くなったが、形を変えたコンクリート張りではないか。 これで自然が蘇ったと言えるのだろうか 」
年配者には、こんな厳しい意見も多い。

画像
             ※ 為石から川原を望む

画像
             ※ 大上戸川の河床

先日、野母半島を一周した。
半島の海岸は、膨大な数の テトラ・ポッドで覆われているところがあったり、港の外に巨大な防波堤や離岸堤が何本も横たわっているなど、かつての自然豊かな美しい海岸線が変貌していた。
手を加えていない大自然に抱かれて育った私には、カメラ片手に、何とも悲しく、寥々たる思いを禁じえなかった。

道路保全上必要な場合などはやむを得ないにしても、海岸の コンクリート張りや テトラの投入などは必要最小限にしているのだろうか。
何をもって必要最小限とするかの判断は難しいが、一次産業であっても、一部の限定的な人のためであれば やるべきではないだろうし、前年並の工事量を維持するために公共事業を推進するなどは論外であろう。
地元からの要望もあって行う公共事業も多いのだが、巨費を投じて得るものはあるとしても、やり方によっては、失うものも大きいと思うのである。

美しい自然が 人々の心を癒やし 精神を豊かにし、延いては国を富まし発展させるということ、自然・景観保全も 大切な国土保全であることも忘れてはならないだろう。

 そこで一句
  潜りっこ 海中水洗 プッカプカ (快団爺)

画像
            

※ 冒頭の写真は黒浜


この記事へのコメント

仮分数
2008年07月20日 11:57
私の友人に 京都のある自治体の職員がいました。
彼は 京都大学土木科卒業です。
京都の街の中に流れている 小さな川を市も議員も商店街も三面張りのコンクリ―ト希望。彼と地元の商店街だけは 石組でコンクリート反対。市長をくどいて 部長くどいて 課長くどいて 条件付きで彼の思いの改修工事。久し振りに彼にあった。
彼の担当した 小さな川は生き生きしていた。
爺様のお考えと同じ。嬉しいです。
仮分数
2008年07月23日 09:05
もう一人 変わった自治体職員がいた。
彼は 今 某建築会社の役員として活躍
彼は 大阪の某市役所の職員になった。東京の私大の建築設計卒業である。市長から 石の公会堂作りたいから仮設計してくれの 依頼。
頑張って設計したけど不可能。市長に無理です。石の公会堂なんて 設計経験ありません。
市長は じゃーイタリアにでも半年 出張したら
彼はイタリアに行き、最終的に、石の建物を購入して
大阪の街に運んで建てた。
こんな 輝かしい市長もいるし 職員もいるんっだよ
島の太陽
2008年09月18日 19:05
波止の石垣の隙間の前に糸を垂らして、ドンポが顔を出すのを息をつめて待っていた小学生の頃を、懐かしく思い出した。それにしても、こういうハートのある話をなぜ現役のときにしなかったのだろう。ちと残念である。

この記事へのトラックバック