【76】 小鯛釣り、帰港中 あわや遭難

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「 そらぁ、大波が来たぞっ! しっかり掴まってろよっ !」
船外機を握っている井上船頭が ドスの利いた大声を上げた。
私は、定員4人乗り小型プラスチック和船の やや舳先に近い場所に陣取っていたが、船頭の声が終わらぬ内に、舟の前半分が、私の体ごと 突然 ググゥーっと 2メートルほど持ち上がった。
頂点に達したかと思ったとたん、私の体が ふわぁっと中空に浮いた。
舟の舳先が、私を残して すぅっと波の底に落ちたのだ。
「 ドッスーン!」
船底が海面を叩く猛烈な音がした次の瞬間、もう既に底を打ってせり上がりつつあった舟の床に、私は 強かに尻から叩きつけられた。
「 ぐうっ!」
尾骶骨に当たったらしく、頭のてっ辺まで衝撃が走り、一瞬息が詰まった。

「 こりゃあ、いかん。 舳先に移るぞっ!」 
私は這いながら舳先の先端に渡した横木まで移動 し、アンカーのロープで60キロの体を舫い棒に括りつけた。
プラスチックの舟は軽くて舳先部の上下動が激しいから、こういう時は、出来るだけ重心を先に移す必要があった。
「 また来たっ! 大きいぞっ!」
今度は、舳先にへばり付いて必死に前を見ていた私が大声を上げた。
舳先が高く持ち上がるかと思ったら、今度は少ししか上がらず、舟は襲ってきた大波の上方に舳先をそのまま突っ込んでいった。
60キロの重石が効いたのだ。

舫い棒をしっかり抱いていたので転落を免れたが、ざんぶ とばかり頭から波を被り、生暖かい海水が大声を上げていた私の口に がぼっと流れ込んだのを、思いっきり飲みこんでしまった。
「 大丈夫かぁ!」
「 ゴホゲホッ、ヘーギ! 平気! 大丈夫だぁ 」
大量の海水を がぶ飲みさせられて、むせながら怒鳴った。

岸の近くなので、転覆しても まあ大丈夫だろうとは思いつつも、それまで、内心は何となく心配で落ち着かなかった。
ところが、大波を被って全身びしょ濡れになり、急所のところまで海水が浸みこんだら、吊上がっていた急所も気持ちも スーッと落ち着いて、不思議と肝が据わった。
「 大波でも、何でも、どんと来い! さぁ行け、どんどん行けぇ!」
横木に座り 舫い棒をしっかり抱いて、海水を被りながら、次々と襲う大波に向かって私は大声を上げるのだった。

これは、夏も過ぎた 或る晴れた日曜日のことである。
釣り仲間で先輩でもある 井上氏が プラスチックの和船を買ったので、進水記念に 行きつけの野母崎椛島沖で子鯛釣りをしようと、長崎茂木港を出て南下した。
樺島灯台口ノ鼻から野母崎大立神岩の方に和船を流 して釣っていたが、正午を過ぎた頃、風が北東に変わって 少し寒くなり、沖の方の波も やや高くなってきた。
釣り始めてから まだ2時間ほどしか経ってなく、子鯛が4,5匹 と雑魚が数匹程度の釣果で心残りだったが、用心のため茂木港に帰ろうということになった。

途中、茂木港と同じ方向の北東の向かい風をまともに受け、天草灘は川原大瀬鼻を過ぎた頃から、だんだんと波も高くなって、軽い和船は舳先を大きく上下し、「バターン、バターン」 と 派手に波を叩きながらの北帰行は難航した。
いつもの倍の時間が掛かったが、ずぶ濡れになりながら、なんとか無事茂木港にたどり着くことが出来たのは、井上船頭の腕と私の重石のお陰である。

今は亡き 井上船頭とは、小鯛を狙って、長崎茂木沖の茂木棚、茂木宮摺沖或いは野母崎沖へと、何十回となく小舟を駆り、茂木港の近くでは綿雪が降る元日でも厭わなかった。
進水記念椛島釣行は、私が40歳代釣行記の 1ページである。

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          ※ 野母より 樺島灯台口ノ鼻を望む
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          ※ 野母崎 大立神岩
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          ※ 川原大瀬鼻(手前)、遠景は 藤田尾二ッ岳埼

今日の新聞を見ると、携帯電話を利用するゲームで、魚を釣り上げると自動的に本物の魚が配達されるサービスを某システム開発会社が始めたという。
自宅の机の上で釣るのだから、仕事と天気予報を気にしながら 釣り船の手配をする面倒もなく、第一、遭難の危険がないので安全この上ない。

「 海釣りなら、海原に孤舟を浮かべ、潮の流れを測り 潮風に吹かれながら未だ見ぬ魚と知恵比べをする。 これを『釣り』と言うのだ。 畳の水練ならぬ 机上の釣りなんて、『釣り』 じゃない! ……しかし、面白そうだな 」
釣りバカは、どんな情報でも 『釣り』 と聞くと、ダボハゼのように すぐ飛びつくから、もう既に、胸をときめかせて端末を買ってる釣りバカがいるに違いない。

 そこで二句
  ネットでも 釣果上がらぬ ドジな奴 (快団爺) 
  ネット釣り 電話で配達 孫に見せ (快団爺)

※ 野母半島
  http://kaidanjii.at.webry.info/200805/article_4.html


この記事へのコメント

うけすけ
2008年01月11日 22:08
快団爺様は釣りもやっていらしたのですか。
冒頭の写真の小鯛も快団爺様が釣っているようで。
{74センチ!すごいですね!「小」鯛じゃないような大きさですが・・・(笑)}
私はまだ「釣り」をやったことがなく、いつかやってみたいなぁと思います。
仮分数
2008年01月12日 11:09
鯛釣り 船酔いが先に来ます
永遠に釣りは 無理です。
足の裏からまで 吐いてしまいます
釣りも上手なのですね。
多分 ロープの結び方なんか うるさいでしょうね。

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