【58】 空き巣にやられたぁ!


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「 ん? なんだこれは・・・」
月曜日の早朝、家族サービスの旅行を途中で切り上げ、一人で家に帰り、室内にこもった空気を出そうと カーテンを引いて窓を開けると、庭の芝生に50センチ四方の四角い鉄の箱が転がっていた。

一瞬、事情が呑み込めないまま庭に下りた。
「 これは、家の金庫じゃないか!」
扉が金庫本体から外されており、傍にバールや金槌などが転がっていた。
預金通帳や不動産の権利証などの書類も、辺り一面に散乱していた。
「 やられたぁ!」
慌てて居間に戻り、収納庫を開けてみると、本来鎮座ましましているはずの場所に金庫は無く、すっぽり空になっていた。
急いで、寝室や和室など他の部屋を見て回ったが、タンスなどを開けたり物色したりした形跡はなかったので、高ぶった気持ちが少し落ち着いた。。

「 サイレンは鳴らさずに、お願いします 」
知り合いの警察署長に電話したら、間もなく刑事や鑑識官が4人ほど駆け付けてくれた。
結局、盗られたのは、パソコンを買おうと貯金を下して金庫に入れていた 20万円だけだった。
「 家の中は一切物色せず、金庫の現金だけを持っていくとは、空巣泥ちゃんも慾がないですね 」
私が感心すると、
「 プロの仕業ですね。 20万円は大金ですよ。 彼らにとって一晩の稼ぎとしては十分ですからね。 足が付くようなことはしないでしょう 」
捜査畑出身だから、署長の話は明快だった。

実は、前日朝の出発時に、窓のロックを忘れていたらしい。
更に、ビデオカメラ用に、【 一家の温泉休暇 in しいば山荘 ・ 平成10年11月12~13日 】 と西洋紙にイラスト風タイトルを描いて撮影し、その紙を窓際に置いたままにしていたのだ。

空巣狙い君が来たのは、もう夜半過ぎ頃だった。
日曜日の夜も更けているのに、車庫に自家用車がない。
彼(?)は長年の経験で、「 んっ、ここはいける!」 と直感した。
裏庭に回って窓に手をかけたら、すっと開いた。
そうっと入ろうとしたら、床に紙があったのでよく見ると、『 一家揃って温泉旅行です。今夜は留守にしますので、どうぞ、ごゆっくり 』 と彼には読めたのである。
当に、行き届いたカラー版 『 お知らせ 』 であった。

「 ああ、今日は安心して仕事が出来ます 」
おもむろに靴をぬいであがり、当たりをつけて居間の収納庫を開けると、金庫さんが 『 お待ちしておりました 』 と可憐に座っていた。
「 今日の感は冴えているな。 親切な家主さんの為にも、床を傷つけないようにしよう 」
50キロは少々重いが、座布団を下に敷いて引いてみると、易々と窓際まで運ぶことが出来た。
裏庭の収納庫の中に、バール、たがね(鏨)、山芋掘り用長鉄鍬そして大きな金槌、更に新しい軍手まで、親切な家主が折角用意しておいてくれたので、立派な生垣が植えられ周りから目隠しされている裏庭で金庫を解体することにした。
裏庭の擁壁下を走っている市道の高い街灯が程良く手元を照らしていたので、扉の蝶番を壊す作業も順調に進み、本体から扉を外すことが出来た。

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「 きょうは、天気も良く最高の日です。 家主さんは素人ですから、ドジだね、などと失礼なことは申しません。何から何までそちらで準備して頂き落ち着いて仕事が出来たお陰で、新券で大枚 20万円を頂戴することが出来ました。家主さんには、ただただ感謝の気持ちでいっぱいです。 だから、他の部屋は荒らしません。 金庫が入っていた収納庫のドアも、窓もカーテンも元通りに閉めて、現金だけ頂いて帰ります。ほんとうに有り難うございました。 芝生を荒らしてごめんなさい。では、また来る日まで、さようなら 」
 
空巣泥君が嬉しそうに呟いたであろう声が聞こえるようで、また、己のドジに呆れ果て、しばらくは、ギリギリと切歯扼腕の毎日であった。
今は箪笥預金をする余裕もないが、その後、空巣泥君が来たとしても、身を隠す裏庭の立派な生垣は無くなっているし、セキュリティー対策が、ソフト、ハード共に 二重三重と厳重を極めていることを知り、近寄ることも出来ず切歯扼腕して引揚げたことだろう。

そこで三句
   空き巣被害 見事な手口と 褒めちぎり (快団爺)
   セキュリティー化 玄人空き巣 引退し (快団爺)
   元我が家 空き巣親子が 鉢合わせ (快団爺)

この記事へのコメント

仮分数
2007年06月09日 09:41
二十万円の大金の泥棒 悔しいです
今や 私は 1000円でも 無くすことは悔しい。宝くじで 1000当ることは 薔薇の花が一斉に咲くみたいに快適。
二十万円出てくる事を祈ります
さぶ
2007年06月12日 19:51
「どうぞ、ごゆっくりお仕事を…。」
バールまで添えて、なんと心優しい庵主様でしょう。
空き巣君は、庵主様に足を向けて寝られないですね。
いえいえ、私も庵主様がドジだとは決して思っておりませんです。
さぶ
2007年06月14日 09:21
追伸
ところで、庵主様のお住まいの名前を鵲声庵に変えられましたね。
カササギの声は人に幸せをもたらすとか。
空き巣君は引退して幸せになるでしょう。
関係ないか・・・。しかし、良い名前です。
Bちゃん
2007年06月23日 16:27
カラー版の「お知らせ」と種々の道具までセットされて旅行に出かけられたんですね・・・20万も盗まれても こんなに楽しいエッセイが書けるのだから よっぽどありあまってるのだと思いました

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